2020年12月6日日曜日

選択と集中しないソニー

 

コロナ禍や米中貿易摩擦など日本経済を取り巻く環境は日々、劇的に変化しています。日本企業はどこへ向かうべきなのか。国際競争で生き残るため、目指すべき経営戦略や新たなビジネスモデルとは何か。経済産業省で長く産業政策にかかわった専修大学経済学部の中村吉明教授が実例とともに考えます。【毎日新聞経済プレミア】 【写真】懐かしい…SONY初代ウォークマン  ◇巣ごもり需要受け増益  ソニーが好調だ。コロナ禍での巣ごもり需要の活況を受けて、直近の4~9月期の営業利益は前期比7.1%増の5461億円となり、2021年3月期の最終利益は前期比37.4%増の8000億円になると予測している。  過去を振り返ると、戦後の高度成長期、日本ではソニーなど総合電機メーカーと自動車メーカーがその成長と雇用を引っ張ってきたが、「バブル崩壊後」の30年間、総合電機メーカーの不調が顕著となっていった。  特にソニーはトリニトロンテレビ、ウォークマンなど、画期的な製品を世に出し、日本経済の成長を引っ張ってきた実績がある。このため、特にこの30年は世界を席巻する新製品を出せない状況を憂える声も多かった。実際、経営指標も厳しさを増していった。  そのような中で、近年のソニーの好調をどう考えるか。  筆者は、古い言葉でいう「多角化」と、新製品というモノではなく「リカーリング(継続課金)モデル」にその復活の理由があると考える。  ◇「集中投資」は正しいか  経営戦略には「選択と集中」という常道がある。米ゼネラル・エレクトリック(GE)の高名な経営者、ジャック・ウェルチ氏が有名にしたキーワードだ。  企業は「世界で1位か2位になれる事業だけやるべきだ」というのがウェルチ氏の主張だった。  しかし、日本企業の多くは、業績がよく将来性があると思われる「一分野」を選択し、それに「集中投資」するというニュアンスで受け取り、それを実践してしまったように思う。過去にシャープが行った液晶への「選択と集中」はその部類に属する。  翻って、ソニーはどうだろうか。  まず1997年度と2019年度の売上高比率を比較してみよう。97年度の売上高比率を見ると、電気製品や電子部品の比率(エレクトロニクス)が69%を占めていたのが、19年度には37%に減少し、「ゲーム&ネットワークサービス」「金融」「映画」「音楽」と多角化している。見事に「選択と集中」をしていないことになる。  ◇コロナ禍や米中摩擦でも  それが運よく功を奏したのだろう。今回、ソニーは新型コロナウイルスの感染拡大や米中摩擦の影響を最小限にとどめることに成功した。いずれも予測は不可能だったに違いない。  少し前までソニーはスマートフォンのカメラに使われている「CMOSイメージセンサー」と呼ばれる電子部品で収益を底上げしていた。ところが、米中摩擦の余波で中国メーカーのファーウェイに納入できなくなり、業況が悪化してしまった。  一方、最近はコロナ禍の巣ごもり需要を背景に「ゲーム&ネットワークサービス」が業績に大きく貢献した。野球でいえば、さしずめ日替わりヒーローの登場というところだろう。  ここでの教訓は、多岐にわたる事業の絞り込みを過度に行いすぎると、危機の耐性を弱めるということだ。  ◇モノ売りからの脱却  ソニーのもう一つの好調の原因は、リカーリングというビジネスモデルを導入し、安定収入を確保することができるようになったことが挙げられる。  リカーリングモデルとは、モノを売ったらそれで終わりではなく、そのモノを利用する際に必要となる消耗品やサービスで収益を上げるビジネスモデルのことをいう。  先日、ソニーは最新のゲーム機「プレイステーション5」を発売したばかりだが、前身の「プレイステーション4」は発売から7年以上経過しているのに、ソニーの収益に大きく貢献し続けている。  もちろんゲーム機としてのプレステ4本体の販売は少なくなっている。しかし、「プレイステーションプラス」と呼ばれる有料会員サービスがあり、月ごとに数種類のゲームが無料になるなどの特典がある。こうしたリカーリングモデルなどの契約件数が増加し、安定的な収益を得ているのだ。  ライバルの総合家電メーカーがリカーリングモデルを志向し奮闘している中、ソニーは他社に先んじてもうかる仕組みを作ったのが大きい。  時代はドラスティックに変わっている。今ある好調は永続しない。今後も新たなシーズ(技術や企画力など新規事業の種)を生み出しつつ、M&A(企業の合併・買収)を繰り返し、次なる「食い扶持(ぶち)」の探索を怠ってはならない。  理想はそれを実現すると、すでにその時点で理想ではなくなっているのだ

0 件のコメント:

コメントを投稿